夏の終わりのワインディングロードは、どこか時間の流れ方が違っている。
ノブキは、ゆるやかなワインディングロードをオートバイでゆっくりと登っていた。
去り行く夏の曖昧な光の中で、木漏れ日が静かにアスファルトへ落ちている。
風が吹くたび、草木が擦れ合い、ざわめきが幾重にも重なった。
耳を澄ませばヘルメット越しに聞こえる、その奥からまだ力強さを失わない蝉の声が、短い季節への執着のように響いている。
オートバイの鼓動が、山の空気に溶ける。
速度を競う旅ではない。目的地すら曖昧な、一人旅だった。
カーブを抜けるたびに景色は少しずつ変わり、木々の隙間から空が広がる。
その途中、ふいに青い影が視界を横切った。
オオルリだった。
濃い瑠璃色の羽が陽に滲み、一瞬だけ枝先に止まる。まるで山そのものが、通り過ぎる旅人へ短い挨拶をしたようだった。
ノブキは自然とスロットルを緩める。
「急ぐ理由なんて、何もないな」
小さく独り言が漏れた。
やがて頂上付近のパーキングへたどり着く。
エンジンを切ると、世界が急に静かになった。
——いや、静かというより、本来そこにあった音が戻ってきたのだ。
ノブキはヘルメットを脱ぎ、深く息を吸った。少し湿った山の匂いに、乾いた土と葉の青さが混じっている。

木々のざわめき。
遠くで鳴き続ける蝉。
どこか見えない場所を渡る風の音——
パーキングの先へ歩むと眼下にはダム湖が広がっていた。
末夏とも初秋ともいえる光をゆっくり飲み込みながら、湖面は青々と深い色をしている。小さく揺れる空を映しながらも、どこか沈黙を抱えている。
風が吹き、シャツの袖が揺れる。
そのとき、左腕に目が留まった。
愛車とともにこの旅のもう一つの相棒はボーム&メルシエクリフトンM0A10870
いつも何かを気付かせてくれる大切な腕時計だ。

ノブキは時刻を見る。
けれど、本当に確かめたかったのは時間ではない。
自分がどこまで来たのか。
そして、何を置いてここへ来たのか。
人生は気づけば、説明のつかない焦りに追われる。
何かにならなければと走り、誰かと比べ、正解のようなものを探し続ける。
だが、山の上ではそんな輪郭が少しだけ曖昧になる。
草木のざわめきは、「急がなくていい」とも「止まれ」とも言わない。
ただそこにある。
蝉は短い命を鳴き切り、湖は黙って光を受け止め、オオルリは誰に見せるでもなく羽ばたく。
世界は、ずっと前から完成していた。
足りないのは、自分がそれを見つめる時間だけだったのかもしれない。
ふと、また青い影が動いた。
オオルリが駐車場脇の木へ降り、短く鳴く。
ノブキは小さく笑った。
「……また来いってことか」
返事の代わりに風が吹き抜ける。
彼はオートバイへ戻り、エンジンをかけた。低い鼓動が胸へ伝わる。
山を降りれば、また日常が待っている。
けれど、不思議と前ほど重く感じなかった。
木漏れ日の落ちる静かなワインディングロードを、ノブキはゆっくり下り始める。
ボーム&メルシエクリフトンM0A10870の針は変わらず進み続けていたが、心の時間だけが少しだけ、穏やかになっていた。
今回の物語に登場したのはボーム&メルシエ クリフトンM0A10870です。
この時計をイメージした物語は如何でしょうか。
このモデルは鮮やかで爽やかなアイスブルー系の文字板色に精密に刻まれたギョーシェ装飾が施され、質感と高級感を見事に表現しております。また、搭載されるムーブメントは性能、評価ともにボーム&メルシエが誇る高性能ムーブメント❝ボーマティック❞です。ぜひ、店頭にて実機をご確認ください。
記:柴田
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