皆様こんにちは。
ISHIDA表参道の佐野でございます。
本日はモリッツ・グロスマンの時計製作についてご紹介致します。
グロスマンの時計はどれも、丹念な手作業と細部にまで宿る美意識によってまさに芸術品の域に達した逸品です。
■見えない部分にも宿るこだわり ― 面取り加工

ムーブメントの内部にあるパーツのひとつひとつに対しても、グロスマンは一切の妥協を許しません。
たとえ完成後に見えなくなる部位であっても、すべてのエッジは木製の回転盤や職人の手作業により丹念に面取りされます。
その後、何度も磨き上げることで、銀白色に輝く繊細かつ上質な表情を生み出します。
エッジの角度と幅を均一に揃えるには、卓越した技術と長年の経験に裏打ちされた目測が不可欠。
見えない部分にこそ真の価値が宿る――そんなグロスマンの哲学が感じられる技法です。
■テンプの精密な調整と美しい仕上げ

ムーブメントの心臓部であるテンプには、組み立て前に綿密なバランス調整が施されます。
必要に応じてテンワ(テンプの輪)の縁にある微細な穴の周囲を丁寧に削り、重さのバランスを均等に整えていきます。
その後、縁の部分は面取り加工によって美しく整えられ、表面とエッジには光沢のあるポリッシュ仕上げが施されます。
さらに、テンプアームにはグロスマンらしい雲のような装飾模様が加えられ、機能美と芸術性が融合した姿に。
完成したテンプは、まさに一点物のような存在感を放ちながら、慎重にムーブメントへと組み込まれていきます。
■グロスマン独自のテンプ受けと精密調整機構

モリッツ・グロスマンの懐中時計の伝統を受け継ぎ、段差を持たせた片持ち式テンプ受けには特別なマイクロメータースクリューが組み込まれています。
この繊細な調整ネジは、ヒゲゼンマイの長さを微細に調整するために使われており、時計の精度向上に大きく貢献しています。
■美しさと機能を両立させたテンプ受けの仕上げ

段差式テンプ受けは、多彩な技法で丁寧に装飾されており、滑らかに流れるような面取り部分は艶やかな輝きを放ちます。
さらに、段差やスクエア形状の調整ネジといった細かなパーツも隅々まで磨き上げられ、上品な光沢を纏います。
細部にわたる仕上げは、存在感を際立たせる手彫りの花模様と調和し、深みのある美しさを醸し出しています。
■手彫りの美とジャーマンシルバーの伝統構造

モリッツ・グロスマンのムーブメントの特徴である「3分の2プレート」は、テンプの輪郭に沿ったアーチ型の切り欠きが印象的です。
ブランド名は、ひと文字ずつ丁寧に職人の手で彫り込まれ、唯一無二の存在感を放ちます。
プレートとテンプ受けには、あえて表面加工を施していないジャーマンシルバーを採用。
ガンギ車受けやテンプ受け、3分の2プレートに施された精緻な手彫り装飾は、グロスマンの妥協なき品質へのこだわりを象徴しています。
■立体的に浮かび上がるゴールドシャトン

盛り上がりのあるゴールドシャトンには、ホワイトサファイアの受け石をセット。
さらに針と同じく焼き戻しによってブラウンバイオレットに発色させたスチール製の平型ネジを使用しています。
この繊細なディテールが、ムーブメントに独特の深みと気品を与えています。
■3段のサンバースト模様による立体的な輝き

角穴車には3段にわたるサンバースト模様が施されており、深みのある洗練された立体感を生み出しています。
この伝統的な装飾技法を忠実に再現するために、最新の仕上げ技術が駆使されています。
■歴史を感じさせる支柱構造

一般的なブリッジ方式に替えて、地板と3分の2プレートから成るクラシックな支柱構造を採用しています。
この設計により、ムーブメントを側面から確認しながら、必要に応じて輪列のあがきを即座に調整することが可能です。
丸みを帯びた美しいフォルムの支柱は、グラスヒュッテの歴史的な懐中時計に対する敬意を表しています。
■針作りへのこだわり

モリッツ・グロスマンが手掛けた計測器や懐中時計は、特に針の美しい仕上げで高く評価されてきました。
グロスマンはその伝統を受け継ぎ、一針一針を手作業で丁寧に仕上げることにこだわっています。
グロスマンは、針を自社で手仕上げする世界でも希少なマニュファクチュールのひとつです。
■手作業による精緻な形作りと磨き

針の形作りはまず金属板から針の輪郭を切り出し、ダイヤモンドやすりを用いて一本ずつ形を整えていきます。
丁寧な手作業で仕上げられた針は、立体感のあるフォルムが際立ちます。
その後、木製の回転盤を使い、職人の手でフリーハンドのポリッシュ仕上げを施し、艶やかな輝きを生み出します。
針の細く繊細な先端は、わずかに弧を描きながら磨き上げられており、抜群の視認性を誇っています。
■色彩と仕上げの繊細な調整

スチール製の針は、一本ずつ焼き戻しによって発色させています。
一般的なブルーに加え、ブラウンバイオレットやブラウンの色合いも採用しており、
そのこだわりからも針づくりへの情熱が伝わります。
■ムーブメントの二段階組立へのこだわり

グロスマンでは、ムーブメントを二度にわたって組み立てる独自の工程を採用しています。
まず一次組立で、各部品を正確に調整しながら組み立て、注油と調整を行います。
その後、パーツにかかる負担を最小限に抑えるため、最終組立の前にすべての部品に完璧な仕上げを施し、二度目の組立を行います。
一次組立(ファーストアセンブリー)
すべての部品とモジュールを精密に調整するために、最初の組立工程が行われます。
熟練の時計職人が細部にまでこだわりながら組み立て、輪列の高さを合わせ、脱進機やテンプのバランスを取ります。
さらに、個々の時計の歩度を厳密に調整した後、腕の動きを再現するワインダーにセットし、多様な姿勢での誤差を補正します。
この段階ではパーツの仕上げが完全ではないため、負荷をかけずに調整が可能です。
完璧に仕上げられたムーブメントは、一度分解されて最終組立へと進みます。
最終組立(ファイナルアセンブリー)
最終組立の直前に、全ての部品に丁寧な仕上げを施します。
その後、ムーブメントを再び組み立てて注油し、厳密な検査を経て品質基準をクリアしたものだけが、ダイヤルや針を取り付けられます。
完成したムーブメントはケースに収められ、最後の精度検査に合格したモデルにのみ、バックルとストラップが装着されます。
モリッツ・グロスマンの時計は、緻密な技術と美しい仕上げが融合した逸品です。ISHIDA表参道でぜひその魅力をご体感ください。
【過去の記事】歴史に埋もれた偉大な時計師 モリッツ・グロスマンのお話
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記事:佐野