皆様こんにちは。
ISHIDA表参道の佐野でございます。
本日はGrand Seikoの名作ムーブメント「キャリバー9S85」をご紹介致します。
■ メカニカルハイビート36000

10振動ムーブメントとは、時計の精度を担う「てんぷ」が1秒間に10回振動する仕組みを指します。
これは1時間に換算すると36,000回に達するため、「ハイビート36000」と呼ばれています。
一般的な機械式ムーブメントは、21,600振動/時(1秒間に6振動)や28,800振動/時(1秒間に8振動)であるため、10振動がいかに高速なムーブメントであるかがわかります。
てんぷは振り子のように規則的な往復運動を繰り返し、ぜんまいの解ける速さや歯車の回転速度を一定に保つ「調速」の役割を担っています。
振動数が高いほど外部からの影響を受けにくくなり、結果として安定した高精度を実現することが可能になります。
過去には、グランドセイコーが国産初となる自動巻き10振動モデルを3種類発表しました。
•フラッグシップモデル「自動巻61GS」
•より薄型で、姿勢差や外乱に対して安定性を高めた「手巻45GS」
•世界初の女性用小型10振動モデル「19GS」
そして約40年の時を経て、より進化を遂げた10振動ムーブメントを発表しました。
■ 10振動復活への挑戦
当時は10振動ムーブメントを製造することは非常に困難でした。
最大の課題は「持続時間」と「耐久性」です。
振動数が高いてんぷは、ぜんまいから多くのエネルギーを必要とします。
てんぷを絶えず往復運動させ続けるには大きな力が必要であり、そのため巻き上げたぜんまいが長時間安定して駆動できるよう、十分なトルクを確保しなければなりませんでした。
さらに、てんぷの規則正しい振動を受けて歯車の動きを制御する「脱進機(がんぎ車やアンクル)」においても、高振動に耐え得る耐久性が不可欠でした。
こうした課題を克服するため、主要部品は素材の段階から見直され、強度の向上と精度の一層の改善が図られました。
■ひげぜんまい 基本性能を向上させる新素材

9Sメカニカルの製造で培われた長年の経験と知識を活かし、まず精度の核心を担う「ひげぜんまい」の素材を根本から見直すことから開発は始まりました。
その結果、約5年の歳月をかけて誕生した新素材は、従来品と比べて耐衝撃性がおよそ2倍、耐磁性は約3倍へと大きく向上しました。
■ 脱進機(がんぎ車、アンクル) パーツ精度の向上を図るMEMS技術

かつての10振動ムーブメントは、「がんぎ車」の歯数を増やすことでてんぷの回転速度を高めていました。
この方法は既存のムーブメントを比較的容易に高振動化できる一方で、歯数が増えることによっててんぷの動きにムラが生じやすくなるという欠点がありました。
また、がんぎ車の回転速度が上がることで油切れが発生しやすくなる点も課題でした。
そこで「キャリバー9S85」では歯数を増やすのではなく、「がんぎ車」の前に「がんぎ中間車」を配置し、輪列全体にかかる負荷を分散させる構造を採用しました。
さらに高振動に耐えるためには部品そのものの耐久性向上も必要でした。
その解決策として、半導体製造の技術を応用した「MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術」を導入。
これにより部品の寸法精度が高められ、表面はより滑らかに、さらに軽量化までも実現しました。
加えて「がんぎ車」の形状そのものも再設計されています。
駆動効率の観点では歯の表面はできるだけ平滑であることが理想ですが、平滑にすると潤滑油が広がりやすくなる問題がありました。
そこで歯先に油溜まりを設けることで、平滑さを保ちながらも保油性を高める工夫が施されています。
■ 動力ぜんまい 高速振動に必要なトルクと実用的な持続時間を実現

10振動ムーブメントは振動数が多いため、動力の消費も大きくなります。
そのため十分なトルクを供給できる「動力ぜんまい」の開発が不可欠でした。
そこで「ひげぜんまい」と同様に、まず素材の見直しから取り組みが始まりました。
6年の歳月をかけて完成した新素材は、従来のスプロンを基盤としながら新たな元素を加えることで改良されました。
その結果、従来と同等の耐食性・耐久性・耐磁性を維持しつつ、バネの力を約6%向上させ、さらに持続時間をおよそ5時間延ばすことに成功しました。
加えて厚みを持たせることで10振動を可能にしつつ、最大巻上時には約55時間の駆動を実現しています。
Grand Seikoは世界でも数少ない、ひげぜんまいを自社で製造出来る「純度の高いマニュファクチュール」ブランドです。
ぜひその魅力を店頭で体感下さい。
皆様のご来店を心よりお待ちしております。
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