皆様こんにちは。
ISHIDA表参道の佐野でございます。
本日は「イギリス時計製造の歴史」についてご紹介します。
時計産業と言えば、スイスやドイツを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし実は現代機械式時計の基礎となる数々の重要技術は、イギリスで生み出されました。
レバー脱進機、自動巻き腕時計、マリンクロノメーター、そしてコーアクシャル脱進機――。
時計史を大きく変えた革新の数々に、英国時計師たちの存在があります。
さらに現在では、英国時計は“復活”とも言える大きな転換期を迎えています。
本日は、そんな英国時計史を初期時計製造から現代のブランドまでご紹介致します。
■イギリス時計産業の始まり

トーマス・トンピオン
生涯に高品質な約650個のクロックと約5500個のウォッチを製作し、「イギリスの時計製作の父」と評価されている
イギリス時計製造の歴史は16世紀後半まで遡ります。
その初期を代表する人物が、トーマス・トンピオンです。
“英国時計学の父”とも呼ばれる彼は、17世紀にヒゲゼンマイを搭載した初期懐中時計を製作したことで知られています。
当時の時計精度は非常に低く、1日に1時間以上ズレることも珍しくありませんでした。
しかしヒゲゼンマイとテンプを組み合わせた調和振動子の誕生によって、誤差は数分単位まで大きく改善されます。
この技術革新は、後の機械式時計発展における極めて重要な転機となりました。
なお、ヒゲゼンマイの発明には ロバート・フック や クリスティアーン・ホイヘンス など、当時の著名科学者たちも関わっていたとされています。
つまり時計製造は、単なる工芸ではなく、“最先端科学”そのものでもあったのです。
■シリンダー脱進機と薄型懐中時計の発展

シリンダー脱進機
1695年、トンピオンはシリンダー脱進機の改良にも成功します。
従来主流だったヴァージ脱進機は構造上どうしても厚みが出てしまいましたが、シリンダー脱進機はよりコンパクトな設計を可能にしました。
これにより18世紀には、ファッション性を意識した薄型懐中時計が流行していきます。
またイギリスでは懐中時計専用ポケットを備えたウェストコート文化も発展しました。
キング・チャールズ2世が導入したウェストコートは、後のスリーピーススーツ文化にも繋がっていきます。
つまり現在の懐中時計スタイルや“時計を身に着ける文化”そのものにも英国文化が深く関わっております。
■ 現代機械式時計の基礎「レバー脱進機」

レバー脱進機
1755年頃、イギリス時計史最大級の発明が誕生します。
それがトーマス・マッジによる「レバー脱進機」です。
現在でもほぼ全ての機械式時計に採用されているこの機構は、
・摩擦が少ない
・精度が高い
・耐久性に優れる
という特徴を持っていました。
従来のシリンダー脱進機は金属同士が常に接触していたため摩耗が大きな課題でしたが、レバー脱進機は必要最小限の接触のみで動力を伝える構造を採用。
これによって時計精度と耐久性は飛躍的に向上します。
現在の機械式時計の“心臓部”とも言える技術がイギリスで誕生したという点は非常に興味深いポイントです。
■世界を変えたマリンクロノメーター

1735年に製作された ぜんまい式の航海時計 H‐1(ハリソン第一号)
18世紀、イギリスは“経度問題”という国家的課題に直面していました。
当時の航海では緯度測定は比較的可能だった一方、東西方向を示す経度測定は極めて困難でした。
1707年には、経度計算ミスによってイギリス海軍艦隊が座礁し、1,400人以上が犠牲となる大事故も発生します。
これを受け、イギリス政府は経度問題解決へ巨額懸賞金を提示。
その課題へ挑んだのが、時計師ジョン・ハリソンでした。
1735年、彼は“H1”航海用時計を完成。
さらに改良を重ねた“H4”は、大型懐中時計型クロノメーターとして極めて高い精度を実現しました。
後にジョン・アーノルドらが技術を発展させ、マリンクロノメーターは世界航海・貿易・探検を大きく変える存在となっていきます。
“正確な時間を知る”という技術が、世界地図そのものを変える事になっていきます。
【関連記事】グリニッジ標準時(GMT)の歴史と、現代に息づくGMTウォッチ
■ジョージ・ダニエルズという伝説

現代英国時計史最大の巨匠とも言えるのが、ジョージ・ダニエルズ です。
彼は20世紀で初めて、“時計を完全手作業で一から製作した時計師”として知られています。
ケース、文字盤、針、ムーブメント――。
そのほぼ全てを自ら製作する「ダニエルズ・メソッド」は、現在でも伝説的存在です。
さらに1976年、彼は「コーアクシャル脱進機」を発明しました。
これは従来のレバー脱進機が抱えていた摩擦問題を大きく改善した画期的機構であり、現代機械式時計史最大級の発明とも言われています。
現在では Omega が量産化に成功し、多くの主力モデルへ採用しています。
【関連記事】OMEGAのコーアクシャル脱進機のお話|仕組み・メリットを分かりやすく解説
■Roger W. Smithという現代英国時計の頂点

ジョージ・ダニエルズ唯一の正式弟子が、Roger W. Smith です。
彼のブランド Roger W. Smith では、現在でも極めて伝統的な手作業中心の時計製作が続けられています。
年間生産本数はわずか15〜20本程度。
ケース、文字盤、針まで自社製造し、最新世代コーアクシャル脱進機を搭載しています。
2023年には代表作「Pocket Watch 2」が約486万ポンドで落札され、英国時計史上最高額記録を更新しました。
まさに現代英国独立時計製作の頂点と言える存在です。
■現代英国時計ブランドの魅力

21世紀に入り、機械式時計人気が再び高まる中でイギリスでも新たな時計ブランドが次々と誕生しました。
現在では英国は、ヨーロッパにおける新興時計製造拠点のひとつとして注目される存在となっています。
その中心的ブランドのひとつが「Bremont(ブレモン)」です。
ブレモンは2002年、ニック・イングリッシュとジャイルズ・イングリッシュの兄弟によって創業されました。
ブランド誕生の背景には、父親を飛行機事故で亡くしたという悲しい出来事があります。
兄弟、そして父親も含め、一家は熱心な航空愛好家でありパイロットであり、彼らは父への敬意を込め“航空の世界観を持つ時計ブランド”としてブレモンを立ち上げるに至りました。
パイロットウォッチ、フィールドウォッチ、ダイバーズウォッチなど、“Air・Land・Sea”をテーマに幅広いコレクションを展開しています。
さらに2021年には、イングランド・オックスフォードシャー州ヘンリー・オン・テムズに大規模製造施設「The Wing」を完成。
約35,000平方フィートにも及ぶこの施設は、現代英国時計製造復興の象徴とも言える存在です。
伝統的な英国時計文化を継承しながら、現代的な実用性やストーリー性も取り入れる――。
ブレモンは、まさに“21世紀英国時計界を代表するブランド”のひとつと言えます。
■まとめ
イギリス時計史は、単なる“過去の栄光”ではありません。
レバー脱進機、マリンクロノメーター、自動巻き、コーアクシャル脱進機――。
現代機械式時計を支える重要技術の数々が、英国時計師たちによって生み出されてきました。
そして現在もなお、ロジャー・W・スミスをはじめとする時計師たちが、その精神を受け継いでいます。
スイス時計とはまた異なる、“個人時計師文化”や“実用工学としての美学”を感じられるのも英国時計の大きな魅力です。
ぜひ今後、時計選びの際には“イギリス時計”という視点にも注目してみて下さい。
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